脳そのものが生む事柄

脳を対象とした自然科学研究が発展し続けていることを前日に書いた。人は、どういうわけか、脳の不思議に惹かれてやまないところがある。脳で思考し、脳を調べるわけだ。私自身、中学のころから、「脳」と名のつく解説書を読み漁ったものだ。神経伝達物質(脳内麻薬と俗に言う)やその受容体の話。海馬のシナプス機構と学習・記憶のかかわりの話。意識とはなにかという話。等々。そして、現在でも神経科学への関心を持ち続けている。
いま、日本は「脳ブーム」がメディアでは言われているが、「脳」はブームであるべきなのか疑問に感じるところはある。しかし、脳科学の研究成果が広く知られることはよいことだと思う。
哲学の分野では、自然科学的手法ではけっしてわからない心と脳の問題がある、という議論がよくある。考えれば考えるほど深みにはまっていってしまう心配はあるものの、どこかに科学の力が及ばない包み隠された領域があるといわれると、なんとなくほっとするということはある。脳の中が全部わかってしまったらどうしよう、と漠然に思うときがある。そのこと自体に矛盾を感じてはいるのだが。
脳はサイエンスに残された最大のフロンティアであるといわれて久しいが、これから脳科学がどこへ向かうのかということに純粋に興味をもっている。それと同時に、脳が思考し、脳が生み出す事柄や現象そのものがもつ面白さを再認識することが可能なのではないかと思う。私は、脳がどうなっているのかを調べていけばいくほど、ますます脳が生み出す事柄(創造性といってもよいかもしれないが)に惹かれていくのである。