「わたしは脳なんかではなくて、人間なんだ。」

それはまさに、「脳とはなにか」から「人間とはなにか」への柔軟な移行である。人間理解のための手助けとなるべきものが、脳科学の一つの大きな意義であると思う。20年ほど前になるが、ヒューマンサイエンスということばがよく用いられた時期があった。人間を総合的に科学しようとする考えに基づいた学問である。現在でも人間科学という学科が大学に設置されているが、主に教育・福祉に重きが置かれている。脳科学は、新しく人間科学をおこなうための強力な武器になりうる。人間科学には、理系・文系という棲み分けはない。自然科学・社会科学・人文科学のあらゆる学問が融合している。そのような学問が発展していけばいいなと思うし、すこしやってみたいとも思う。立花隆は、そういう意味では、まさに人間科学者と呼ぶにふさわしいのではないか。